何を書くか、何を書かないか。

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受付の人あれこれ

私の所属する会社はシェアオフィスを2つ契約していて、社員はそれぞれを任意で利用できる。1つは主に個室利用ができるところ。利用に応じてスポットで15分あたり150円ほどかかるため、よほどのことがないとちょっと心苦しい。もう1つは、シェアオフィスのビジネスラウンジ(フリーアドレスのようなもの)。時間単位では料金かからず空いていれば自由に使える(会社が大阪梅田で常時4人用個室を契約しているのでその特典という形)。後者の、ラウンジの有無は店舗によるんだけど、都内だけでも20箇所程度あるので困らない、便利だ。よく立ち寄る新宿西口のは6人入れるが今のところ入れなかったことはない。ああ、幸運。

受付には素敵な女性が2人いて、「お疲れさまです。お待ちしていました」と、98%の笑顔で柔らかく声をかけてくれる。そこは「常時オフィス」として契約をしている法人もいるためか、入ってくる皆に対して「帰ってくるべき社員」のような形で接するのがマニュアルなんだろう。なのでこちらも「いやあ今日は暑くて外回りはとても疲れました。今日はこんなやなお客さんがいてね・・・」なんて話したり ーというのは全くの嘘で(外回りという外回りをしたことがない)どもりながらお礼を言ってラウンジスペースへ向かう。

そこにくる人は外回りの移動の合間でやむ得ず立ち寄ったというより、得た権利を十二分に行使して、もうほぼ仕事の習慣としてかよっているようにみえる。おそらくリモートワークがベースで家に居続けるのも苦になってきたのではないかと推察する。はい、私がそうです。それで、おしなべて利用者は男性の割合が高い気がする。私は20年2月に入社してすぐ緊急事態宣言で全社員リモートワークになった身で、営業に異動になってからこそ同じ部のメンバーと対面で打合せすることも増えたけど、前職でオフィスに缶詰になっていた頃を思い出すと比べるまでもない。そんな感じで、知らない人と結構な時間同じ空間でいて、また同時に仕事の姿を見ることで思うのは「不思議な世の中だな」ということ。

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「受付の人」で思い出すことといえば、昨年の夏にであった黒木さん(仮名)だ。7・8・9月と3回飲んだけど結局実にならなかった。結果としてはよかったと思う。とりあえず書き連ねる。

「辛いものがすごく好き」「仕事おわりは赤坂がアクセスいい」それだけの理由で初回打合せには赤坂の好きな韓国料理屋を選んだ。埼玉出身、同い年、黒髪ショート。オフホワイトのブラウスに暗いピンクのタイトスカートという出立ちで、写真で見たよりも身長はちいさく見えて150cmなかば。鼻が高くて、睨まれたらきっと身がすくむような鋭い切れ目だった。会う人によってはおそらく表情が乏しい感じの印象を受けるけど、控えめに言って一般的には「美人」に分類されるだろう顔だった。身の丈に合わない感じが否めなかったけど、幸運なのだからしょうがない。

われわれは紋切り型の自己紹介を終えた後、天気の話をするわけにもいかず仕事の話にうつった。聞くとこの近くでビルの受付をやっているという。このあたりで受付がある会社なんて言うと、店のすぐそばにある某テレビ局くらいし私は思い浮かばなくて(入ったことはないのだが)、思い切ってそこの名前を出すと当たった。

彼女曰く、受付はそれ専門の派遣会社がある。該当のビルそのものから同社が委託を受けてその建物に人を派遣するケースが多いのだそうだ。なので彼女はそのテレビ局の所属ではないし、もちろんそこに対する帰属意識も何もない。わりにお金がいいのと、TVで見かける人をたまに受付で見れることくらいが役得かなと特にテンションが上がるわけでもなく言った。私は一つ学んだ。

場が温まって「(これまで)どんな人とあったか」「どんな感じで離れたか」「どんな人とであいたいか」なんかを話した。これは結果的に学んだことだけど、このいま相対している相手を置いておいて、別の人の話(オルタナティブ)をするのは、経験的にいってよくない結果につながった。水面下で、同時並行的に動いていたとしても(動いていない方がおかしいといえばおかしい、男はお金を払ってるので期限があるわけだからね)、せっかく面と向かって会えたのだからその相手そのものや、相手との関わりを中心に話すのがのぞましいのだった。書きながらも言葉にしづらいのだが、仮にも「他の人の話」は雑談的にも笑い話的にも持ち出しやすいけど、やはりどこかでボロが出る。あるいは、相手のボロが見えてしまう。それってやっぱりもったいない。だから僕も注意するようになったけど、相手の話の流れもあるわけで、しないようにしようと思ってできることでもないのだ。コミュニケーションはむずかしい。

彼女は続けて「あたしさ、決まって女には嫌われるんだよね。なんというか人にあまり関心がない感じが伝わっちゃう的な? でもさ、この仕事ってみんなそこだけの関係って割り切ってるからすごい楽なんだよ。簡単にいえばみんなサバサバしてる。仕事は仕事」。私の方はそうなんだ、じゃあ仕事が性に合ってるんだねと相槌を打った。やがてマッコリが入った深茶の木桶は空になり、次どうする?とか言い合って 、「戻りビールが最高でしょ」というので瓶ビールを頼んだ。彼女は飲み続けると顔色が悪くなるなんてことは全くなく、むしろ会い始めたときより顔色がよくなって、心なしか表情も解放的に見えた。

19時半に開始して結局22時まで飲み続けたけど、酔っている様子もこれから酔いますよという見込みもない状態だった(それは考えようによってはいいことである)。一方私は情けないことにギブが近くなり「だめだ、帰ろう」といって勘定を呼んだ。赤坂のアジア系繁華街の路地。湿った夏の夜風にあたりながら、お互いの最寄りになる赤坂駅まで歩いていった。キャッチが通る人みんなに、元気に声をかけていた。

実際、その方とは次会う機会もあったのだけれども、印象的だった言葉は「アプリやるのってさ、就活だよね」これに尽きる。くすくすと笑いながらスマホを人差し指で上下にスライドする仕草を見せて「(ほかにも)いるでしょ??」。

「会った相手にね、その時はおべっか使ったり、次も会いたいねって言っても、その日わかれた瞬間にその相手の顔を思い出さなかったら、ほんとの”次“はないと思うのよ。まあ、1ヶ月くらい経って、ああ、あの人あいたいななんて思うのは無いでも無いんだけど、就活と同じでそれじゃ遅いから(笑)」。

なるほどね。私は彼女の言った言葉に対して、関西圏の出身でもないのに「せやなー」と思った。声にはならなかった。

 

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