渋谷駅から吉祥寺方面の井の頭線に乗っていたとき。どこからともなく「マイ・フェイバリット・シングス」のメロディが聞こえてきた。文庫本から目線を上げると、4歳くらいの男の子が座席にひざ立ちになり、窓外を眺め、そして口ずさんでいた。聞き間違いかと思ったがそうではなかった、えも言えぬ気分にさせられた。あれは実にうまい口ずさみだった。
私は学生時代にジョン・コルトレーンのアルバム集でたまたまこのメロディ(楽曲)を知ったが、世の大半はJR東海によるCMの「そうだ京都に行こう」だろう。また、最近だと日本がミュージック・ヴィデオの舞台にもなったとされる「セブン・リングス」(アリアナ・グランデ)で同曲をオマージュしている。
(マイ・フェイバリット・シングスは)ミュージカル(映画)の挿入曲がオリジナルです。「サウンド・オブ・ミュージック」という映画での曲ということは案外知らない人が多いと思います。1965年の映画なので、世代によってはなかなか知る機会がないかもしれませんね。この曲は個性的な上下するメロディが繰り返されるのが最高で、最初と最後のテーマ部分は少し音が変わります。その微妙な変化をずーっと聞いていたくなるような中毒曲。ジャズとか関係なく好きな曲です。とにかく言葉で表現できない素晴らしい曲なので聞いてください。
あるいは似たようなもので、よくニューヨークジャズを代表する(しているように扱われる)「サニー」」というのもある。こちらは1938年にテネシー州で生まれたボビー・ヘブというファンク歌手が66年に歌った。
Sunny, yesterday my life was filled with rain
Sunny, you smiled at me and really eased the pain
ほとんどこの歌詞を繰り返す。
周辺年代の68年には盲目の世界的ピアノシンガー、スティーヴィー・ワンダーがいち早くカヴァーしている。かのジェームズ・ブラウンは翌69年。母がよく好んで聴いていたというのは、75年ボニー・Mによるよりディスコにふさわしいバージョン。これもこれで激しくていいをディスコに行けば絶えず流れていたらしい(母談)。
調べられる限りではジャズはだいぶ後で、パット・マルティーニ氏が97年に弾いている。某ビールCMニューヨーク、ニューヨーク〜♪のフランクシナトラも歌っている。
日産サニーのCMソング。と思いきや、1963年11月22日に起こったジョン・F・ケネディの暗殺事件と関係ありました。作詞作曲のボビー・ヘブはこの事件と、自分の兄を亡くす事故とがこの日に起こり、悲嘆に暮れて神に祈る日々を送る中で、このメロディが思い浮かんだそうです。脳天気に聞こえる歌だけど、これはブルースなんだな。つまり「サニー」とは神様のこと。
何でもスタンダードジャズが楽曲の原点とは限らないみたいです。いろんなバージョンがあるからアレンジされ続ける名盤はいい。ランニングの楽しみ方で例えるなら、スピードプレイやトレイルランニング、心拍数が120くらいまでしか上がらないジョギングとか。もちろんレースも。