何を書くか、何を書かないか。

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赤子が泣き止む時、女は電話する

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夜十時、赤子の泣き声が住宅地にひびきわたった。私は戸を閉めて眠りにつこうとした。48分間のジムノペディが終わりを迎える頃、私はまだ眠れずにいて、もう一度だけ戸を開けた。網戸越しに入ってくる夜風が気持ちよかった。どうやら赤子は泣き止んだらしい。すると隣の部屋から大声で電話する声が聞こえて来た。隣も戸を開けていたのだ。こないだベランダに、見覚えのない吸い殻が三つ並んでいて驚いた。すこしだけ屈んで隣のベランダを見ると、数十本の吸い殻が散らばっていた。隣の女は少し、頭が悪いらしい。*** 通常の駅員とはすこし異なった服装の男性二人が初老の男性の手を引いて、急ぎ足で階段を駆け下りて来た。私はそれをJR新宿駅の地下通路で目撃した。手を引かれた男性はぐったりとしていて、何かとんでも無い事をしでかしたような表情だった。おそらくあれは痴漢 だったんだろう。男はがっちりと手を掴まれ、抵抗出来ないようになっていた。私は「羊をめぐる冒険」の下巻を片手に携え、数秒間その光景を凝視した。その乗り換えの後本を読む気が失せてしまって、男性があの後どんな職務質問、あるいは説教に遭っていたのか気になった。***猫がいた。ある猫が私の股下をくぐり抜け、からだを擦り付けるようにして動き回った。愛してほしいと言っているような気がした。無論、猫はそんなことを言わない。ただ私たちが勝手に想像するのだ。私が愛してやろうか、という気持ちが先行しすぎてしまっているのである。 ** 私はこの頃何も書けなくなっている。書けなくなっている、というのはとても簡単である。何が問題かというと、それを自認し、ただ身体と精神を侵食されていくのを見過ごそうとしていることである。つまらない。ああ、つまらない。つまらないと言えばその時ばかりは気が軽くなるが、翌朝はとても起きられなくなる。精神は底の方で、時間も同じく続いているのである。団地の一部屋から聞こえる母親(女性)の怒号が早く止まないか、と思う梅雨入りたての一夜デス