何を書くか、何を書かないか。

70パーセントはフィクションだと思ってください。

こえ

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ぼたぼたと10円玉サイズの蜘蛛が深緑色したジャケットから落ちてきた。ジャケットの胸元から沸いて床にこぼれ落ちた、と言った方が表現が適切かもしれない。

あわてて僕は駆除しようと体勢を整えたが、まったくわけが分からないのとパニックで思うように足が動かない。やがてそのうちの一匹が僕に向かって飛んできた。

「いやだ気持ち悪い!」と声をあげたと思われるところで目が覚めた。はじめからおかしいとは思ったんだ。

 

 

おとといに夜更かしをしたのが原因だと思われる。だいたい、普段ならぐっすりと眠っている夜中の3時4時まで起きることなんてそうそうない。

でもあの時はよかった。翌朝は朝練習がないのを口実に、ストレス発散と友好関係を維持・向上さすために参加した。ずいぶんと楽しかったからそれでいい、たまにやるからそれがいい。

だとしても「よふかしカラオケ→無数の蜘蛛に襲われる」というのは、あまりにも度が過ぎるんじゃないかと嘆いた。心なしか肩回りが重い。なまりのジャケットを着ているみたいだ。

 

 

「声」についてまなぼうと思った。音声学的な見地からではない。「語り」として表出されるかたちをした「こえ」をだ。

文字に起こされるのと口から発せられるのではまったく異なる形態になる。至極当然のことを言っているはずなのに、これはまたふしぎな感覚だ。

急に、どうでもよかった物事のそれぞれがどうでもよくなくなってしまったような気分で、それはそこらへんにいる道端の花にいちいち目を向けてやるのと同じくらい、いつでもどこにでもどんなときだって見かけられるほど転がっていたりする。

 

 

冬のみどりが青々としているのを見ると、僕は違和感を抱く。何もかもが冬は枯れてしまい、なんでもない枝と幹と土と、その下には根がきっと残されていて春を待ちわびる。

動物も植物もみな、それはそれはあたたかい春を期待している。どうしてそう、そとみはすっからかんになっても春にはきちんと花を咲かすのか。

これはただ一般論だと思っていて、春に咲かない花は花ではないといっているのではない。しかしまた、冬に花を咲かすものもある。冬椿なんてのは特にそう。咲き誇った花弁は実に艶やかな赤色をみせてくれる。

一年次の冬、雪をかぶった椿を見て感動し、思わず写真に収めたことを憶えている。椿は、「日本の薔薇」ともどこかでは呼ばれるそうで、たしかに誇らしげで強かそうな風がある。葉が丈夫なことから「強葉木」から転じたという謂れもあるらしい。

生物みな、生きるのに必死になって自分のフィールドを守り抜いてきたんだろう。そこには自然に淘汰されるものも中にはいて、後になって化石となり後世で持て囃される。

それもまた生きる道、生きた道ではないか。進化論なんて語れやしないけれど、ごめんなさいね。

 

 

就職のためのイベントが授業の延長線上にあって、それに先週の土曜日出席した。

学内向けのメール配信にはパネラーとして朝日新聞社の人事部の方がいらっしゃるというので、これはこれはと思っていってみたけれど、想像をはるかに超えるほどたくさんの社会人の方が他にOB・OGとしてゲストに迎えられていて直前まで選べずに戸惑った。

結局、第3タームの選択自由の時間は、朝日新聞社の人事部の女性の席に寄せさせてもらった。ひとり一番乗りだったので、ほかの学生は興味がないのかと思ったけれど、5分も経つうちにあっという間に席は埋まった。

僕が就職に関することでその方に聴きたいことは山ほどあったが、それはほかに集まった学生がみごとに、それも端的に質問してくれたので助かった。

なので、僕は僕なりの個人的なちょっとくだらない質問をぶつけさせてもらった。非常に人あたりの好い方で、堅苦しそうなイメージはまったく見られなく、よくわらいよくはなし、とちょっとした古い固定観念を壊してくださった。

 

 

1度目と3度目のタームで偶然にも合い席になった女子学生の〇〇さんは、緊張して目が潤んでいた。

OBの先輩から向けられた言葉と、僕の質問するはなしの内容に大きく頭を動かして頷いていて印象的だった。

加えて、個人的に面白かったのがその〇〇さんの名まえ(漢字一文字)は間違えたのかなにかして修正液で訂正していた跡が見られたことだった。

それを思わず聞いてみると、はねだかはらいだかが気に食わなかったから...だ、と丁寧に答えてくれた。

僕もよくじぶんの字を修正する。気に食わない書き方は確かにある。けれど、何故かそのできごとは僕にとって、この上なくおもしろくて興味深い記憶に残らずにはいられないようなできごとになった。

学科も学部も違う彼女とは会うことはないだろうと思って「いやあ、学内ではちあわせになる機会なんてもうめったにないですよね」と少しさびしく言ってみたところ「わたし▲▲の◇◇で朝にアルバイトしているんですよ」という意外な返事がかえってきた。

「その時間帯ならよく朝練習があるので終わりがてらよく行くんですよ」と言うと「やっぱりわからないもんですよね」と来た。是非とも◇◇の売り上げに微力でも貢献できるようにしますね、と言ってその日は別れた。

試しに、けさ朝練習があったので終わりがてら行ってみたところ〇〇さんに出くわすことが出来た。少しだけ嬉しくて話し込んでしまい普段のレジ会計よりも30秒だけ長引かせてしまった。

「うしろで待っていた学生さんごめんなさいね」とこころの中で平謝りながら店を後にした。けさ〇〇さんの眼は潤んではいなかった。