「僕」と「私」と「わたし」の記録

87パーセントはフィクションです

そんな季節なんだ。ひとの話を聴くことは、途端に身勝手な想像を巡らせるのとおなじこと

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午前のトレーニング後に昼食を直ぐにとった。ふと、仲のいい先輩に会おうとおもって、無料通信アプリを開き「いつ空いていますか?」と訊いた。すると直ぐに「昼飯いける」と来て、自分から言ったものだからと半ば仕方なく「付き合います」と返した。

 

その先輩は一つだけ歳がうえで、背は僕よりも25センチほど低い。高校生の時に、全国大会で勝っていて僕にとってスーパースター的な存在だった。また姿形がかわいらしいシルエットで、やはり僕は先輩を好んでいた。先輩として深く慕わせてもらっていた。

 そういえば僕が高2の国民体育大会では、ウォーミングアップの時、気づけばたまたまその人のうしろをジョギングしていて強く興奮をした憶えがある。なつかしい。

 

 

車を出してくれるとのことだったので部屋に向かった。顔をやや赤らめて髪をかき上げながら出てきた先輩は「少しきたないの」と言ったので「じゃあここで待っています」と僕は告げ、律儀に玄関先に突っ立っていた。

 

その先輩には恋人がいて、その人とも僕は仲よくさせてもらっている。その人も僕にとって直属の先輩にあたり、また同じ東北出身の誼みということもあり、よく世話をしてもらった。(現在進行形で世話してもらっている) なので、部屋には何度か出入りさせてもらっている。僕は、家と研究棟とを15分弱自転車でかかるのに対し、その先輩の住処はどちらも研究棟から1分もかからないところにある。ということもあり、図々しくよく出入りをさせてもらっている。

 

車に乗り込むと案の定、その先輩は落ち込んでいた。どうしてかというと、彼らの恋仲にヒビが入りかけていたからである。というか、すでにヒビは入っていた。そしてお互いの意見の不一致が、余計なヒビを大きくすることに拍車をかけていた。お互いがお互いに対して思っていることや言いたいことがまったくをもって違っていた。互いの言い分があったのだ。

 

もうひとつ問題であったのは、どちらかが悪いことをしたわけではなく、嫌いにはなれない (なりたくない) というようなことだった。ー恨み別れはしたくないが、簡単には戻せない…-みたいな。 

 

そんなこんな話を聴いていると、好きなラーメン屋に到着した。予想通り、土日の昼間ということでそこは混んでいた。そこは、以前彼らに連れてってもらったことのある、ちょっとしたおもいでのお店だった。

 

席に着くとまた先輩が溜め息をついた。肩の力を抜き、厚い木材で出来た長机に上体をもたれ掛け、視線はやや低めに向いていた。まさしく、人が落ち込んでいる証拠だった。

 

その先輩はきれいかかわいいかで言うと、身長の所為もあって後者に選ばれる方だった。先にも書いたが、僕にとってのマスコット的な存在感は、日常の中でとても好く僕の目に映っていた。ただでさえちいさい先輩の背中は、余計にちいさく見え、強い悲壮感が漂っていた。

 

 

「おもいでがあるから」というのが、特につらい理由らしい。なにも感情的にならなくたってその話は解る。間近でずっと見てきたから。それでも「彼らのこと」についての本質は「僕の知らないこと」の方が圧倒的に多いに決まっているわけで、余計なことは口出しできない、とおもったしそう伝えもした。

 

先輩はラーメンをすべて平らげ、珍しくスープを飲み干そうとしていた。「太りますよ」と忠告をしたがまるで聞かなかった。先輩はおもむろに横を向き「このことはまだアライにしか言ってないんだよねえ」と呟いた。途端に僕は胸が熱くなって、お礼を申した。

 

 

長机の向かい側には、父母息子に構成される家族が仲良さそうに坐った。席に着くやいなやママなる方は「留学したらどんな会社にだって入れるのよね~?パパ?」と聴いて、また息子の反論を無視するように、立て続けて「だから行った方がいいわよ~メリットデメリットなんて今は分からないじゃない~?」とまくし立てた。

 

それはラーメン屋で話すことなのかと疑問符が頭上に浮いたが、そんな基準や規範、制度なんてここに整っているはずもないと思い直して、また話を聴くことにした。これは盗み聞きのためなんかじゃなく、紛れもなく「まなぶため」だった。先輩もいつの間にか聴いていたと思う。なにせ、その向かいとの距離は2mもなかったから。

 

マダムのようなママなる方のまくし立てを遮れなかった息子は、おそらく今年の春に高校を卒業するのだろう。(もしくはもう、卒業したのだろう)ママからの「なんで明治を推薦で受験しなかったの」という問いと「留学の準備をしなくっちゃね」というそそのかしが異様な「何か」を示していた。僕にはまるで見えなかったが。

 

はて、どこに行くんだろう。

 

 

反論を許されず拗ねたように見える息子は、もしかすると仲の良いママ・パパのもとを離れるのかもしれない。そんな季節なんだな、と勝手に想像を巡らせてしまった上に、また傍らでは先輩の話も相まって胸が痛んだ。

 

息子を挟むようして座ったパパなる方は、白髪が頭部の大半を占めており、いかにも学のありそうな風ではあった。しかしそんな風ではあったが、ママの問いに対して、いかにも頼りなさそうに「そうなのかな~」と答えた。そこは「そんなはずはないだろ!」と強くキッパリと言ってほしかったものだが、多分僕とは住んでいる世界が違うにちがいない。先に書いた疑問のほかにも、ママなる方の「アタック」は続いたが、何もかもがある種ぜいたくな悩みにきこえた。

 

 

帰り道、載った車のミラーにぶら下がったディズニーキャラクターのストラップだってそうだった。彼らの仲を示す象徴だった。僕はそれをつつきながら「たしかに辛いですよね」と言ってみると、自分がいかに薄っぺらいことを口にしているかが痛いほどに感じられた。

 

でも、自分にはいまどうすることもできないということも事実だった。ふたりじゃ話せないというから「仲介人をしましょうか」と訊いてみた。すると、先輩はまた髪をかけあげて苦笑いをしながら「それがいいかもね」と言った。

 

こんなことを書きたくなる季節になりました。出会いあり別れあり