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無駄が愛されないということについて

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「今日はよく晴れた一日だった」ということを朝と昼休みと夜空の情報からしか話すことができなくなった。食堂はビルの五階にあってそこは最上階である。三方向がガラス張りになっていて、北東には東京タワーとその向こうにスカイツリーがよく見える。懲りずに毎日、満員電車に揺られている。私はやせ我慢をしている。満員電車でも、多少通勤に時間がかかっても、駅まで結構歩くけど、そして誰も起こしてくれない、帰っても誰も話す相手がいない一人暮らしであっても「なんとかやっていけるだろう」と思うようにしている。昔から頭が悪い。また要領も悪い。***帰るとそこには誰もいない。玄関には、朝髪を乾かすために持ってきた茶色い椅子だけがポツンと佇んでいる。玄関先の電気は点いていた。急いでいて消し忘れたのか、私にしてはまあまあ珍しかった。珍しいといっても、学生宿舎の頃、初夏に鍵をなくしてから三月に見つかるまでずっと開けっ放しにしていたくらいだから、そうでもなかったかもしれない。・・・帰り道はいつも使う路線を変えてみた。まだ定期を作っていないから。比較的空いていて座れた。世の中では水曜日が特別な日なのだろうかと少し考えてみた。私はまだなりたてだし、ついでに言うとイナカモンの出なのでそういうことがよくわからない。空いていたから気分が良くてその路線を明日も使ってみようと思ったのかもしれない。ただ1つ言えるのは、JR山手線のより乗客の品がよかった。彼らは割と本を読んでいた。しっかりとイヤホンをして英語のポケット参考書を小声で読むサラリーマンもいた。私はそこで、村上さんの『風の歌を聴け』の三度目を読み終えた。

・・・夜道を歩いていた。細くて暗くて、妙に長く感じる道だ。それは時々短くもなれば長くもなる。雨の日は特に長く感じる。***頭の上に広がる空が奇妙だった。月の光が強いのかぶ厚く覆う雲が照らされていた。波打つぶ厚い雲はどこへいくのだろう?・・・よく見えなかった。停止したトラックの運転席に人がいるような気がして目を凝らした。もぞもぞとしていたから注意してみてみた。目を凝らしているうちに停車するトラックの近くまで来た。茶色い長髪の男が何か話しているようでそれは電話だった。耳元が仄かに明るくなっていたので、電話で話している、と思った。もしかするとゲームボーイのSPだったかもわからない。男はフロントガラスに向かって何度も頭を下げた。まるでそれは目の前で無理を言うクライアントがいるみたいに何度も頭を下げた。数メートル先に木の枝が落ちていた。昨日の雨で折れてしまったようなちぎれ方をしていた。カレーの匂いが香ってきた。子どもの声が聞こえてきた。雑木林はあやしく繁っていた。猫は人懐こく、つきまとうように尾行してきた。何も食べ物を持っていなかった私は、その猫に何を与えてやればよかったのだろう?お金をあげればよかったのだろうか?痛々しく折れた小枝はイモリかヤモリにみえた。私にはどちらの区別もよくつかなかった。突然襲ってきたら困るので私は数秒ほど停止した。襲ってくるはずもなかった、なんてったってそれはただの小枝だからだ。池がついた公園の脇の草っ原には私の手のひら大のウシガエルが大御所のように座っていた。そいつのランクはいくつくらいだったのか。もっと主らしい主がいたのだろうか。そう思わせるくらいそいつはでかくて、私は思わず写真を撮ろうとした。桜は街灯の光に照らされ、散る花びらは雪のように煌々と輝いた。輝いたというのは嘘かもしれない。あくまで綺麗にみえたことの喩えだ。おじさんは容赦なく私と同じくらいの歳の女性を、肩と背中を使って押しつぶそうとした。かわいい女性の方にはそうしなかった。学生くらいの男子はおじさんに必死に抵抗していた。おじさんは一歩も退かないという感じだった。おじさんの肩はプルプルと震えていたから私は「肩の力を抜いたほうがいいですよ。そうすると肩凝りもよくなりますし、何よりもうすこし広々とスペースを使えます。あまりにもあなたの肩はプルプルしている」と言おうと思った。その言葉は本当に喉まで出てきていて、私はそのために本を閉じ、イヤホンを取ったぐらいだった。きょうは、会社に生きることとは「無駄が愛されない」ことなんだと説きたかったけれど、疲れたからやめる。