何を書くか、何を書かないか。

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10月31日(木)

半年間、お世話になった男性がいた。これからもお世話になるだろうが。

 

表参道の渋谷側、青学の目の前の紀伊国屋の真横に鍼灸院をかまえている先生がいる。その男性は今53歳だが、49歳の時フルマラソン3時間の記録を破った。つまり、50歳目前でサブスリーを果たした。これはすごいことである。本誌の連載で協力してもらっていたのでそのお礼を込めて今日は渋谷で飲んだ。よりによってこのハロウィンの日に、渋谷で。

東急本店の目の前、宮崎料理屋「魚山亭」。宮崎の地ビール「ひでじビール」というのは800円する。他にも1合800円から1100円する日本酒を何本もあけ、11時出てきた。先生はフラフラだった。僕はなんとか先導をきり、渋谷のハロウィンジャングルを抜けてきた。サンタとかドラゴンボールとか、ピエロとか。あとあれはなんだ、ドラキュラか、顔が崩れたゾンビみたいなやつとかいた。この人たちのエネルギーは、ただ単に行事儀式的なハロウィンを祝うというよりも、異性に何とか接触するためなのだ。悪いけど、それは容易にわかった。センター街の交差点から道玄坂に登る道。「俺が裏切ったらすぐそこの警察署に行こう」(そこに警察はない)。「大丈夫、ペース合わせるから」(なんのペース?)、というような会話が矢継ぎ早に、いや止めどなく溢れ、宙に浮いて、消える。賢い、いや通常の意識をした女性は「もう帰るので」と口にする。それ以上のことも以下のことも、僕が見たことは言わない。たまたまそれを見たが、極めて合理的だと思った。しかしこれ場所が変われど、通常はクラブハウスでは特別ではなく日常的に行われていることで、今ここに始まったものではない。10/31にやや偶発的に起きたものではないのである。ちょっとお金を払うと見えてしまう世界が、たった1日2日、街に姿を現す。その彼らを制止するためには多額の税金が使われていることは紛うことなき事実なんだけど、世が許してくれるのならそれに乗っかっても損ではない、とふと思う。

僕は、先生と直接の上司である編集長と別れたあと、井の頭線の改札に行く手前1人のサンタと話した。なかなかかわいかった。年はおそらく、二つ三つ下だろう。「あっこれよかったら」と、いちごみるく飴をくれる。恐る恐る渡してきた。「どうも」と言って恐る恐る受け取る。3、4歩は歩いて思いだす。「これよかったら」と言ってチョコ菓子を渡した。ちょっと意外に思ったようで彼女は微笑んだ。朝、家を出る時に持ち出したものだった。「笑った」でもなく「微笑んだ」。