何を書くか、何を書かないか。

70パーセントはフィクションだと思ってください。

言葉にしづらい気持ち

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大学1年生の時に好きな女の子がいた。この思いは、結局きちんとした形で実を結ばなかったのだがそれなりに「いい思い出」として記憶している。それはなぜか。

2日に1度くらいの頻度で連絡を取り合った。教室で顔をあわせると3度に1度くらいは会話をした。それ以外は気まずくなって、お互いの存在に気づいているのに何も話さなかった。また、同じ部活動に所属していたのでほぼ毎日グラウンドで見かけたが、そこではほとんど口をきかなかった。その夏の終わり、私たちの関係にやきもきした友人が「3人でご飯に行こう」と提案してくれて、僕たちは3人でご飯に行った。その後は、カラオケに入った。そこで彼女は加藤ミリヤの「WHY」を歌った。私は彼女のことが好きだったが、彼女には仲睦まじい彼氏がおり(今はすでに結婚している)、私が彼女のことを好きなこと以外、とりたてて大きな問題はなかっただろう。彼女はその歌を、ただ歌いたかっただけなのだろう。しかしそれにしては想いがこもりすぎていた。友人は横になり夢の中にいたので、実質的に部屋には彼女と僕で2人だけだった。画面の明かりだけが寂しく部屋の中を照らしていた。薄暗い部屋で彼女は私が貸したピンク色のTシャツを着て「WHY」を歌う。そんな彼女を見ながら僕は複雑な気持ちになった。「言葉にできない」のではない「言葉にしづらい」気持ちだ。

お互いの睡眠時間を削り、よく語り合った初夏。7棟くらいの学生アパートが乱立する中央に共有棟という古い建物があった。そこで私たちはいろいろと語り尽くした。不意に「どうして私が好きなの?」と聞かれ、僕はうまく答えられなかった。言葉に詰まって、その質問は中に消えた。大雨が降り続いていた。僕は今でもその光景を鮮明に思い出すことができる。私たちの部屋は、歩いて30秒のところにあったが帰らなかった。体育座りした身体の横で冷たいては握られ、その握力は強まったり弱まったりした。次第に空が明るみ、夜が明けた。相変わらず雨は降っていた。仕方なく、僕らはそこに留まった。