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長距離走者にとってのビール

おとといの書いたものですが載せます。昨日は50キロを走ろうとして43キロでギブアップしました。気持ちよかった土曜日の話を置いておく。

 

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昨日(金曜日)のトレーニングのおかげで足の筋肉痛に悩んだ。ずっと熱をもっていて、地面に足を置くたびにズキズキ痛んだ。でも1日を寝て過ごすまいと仕方なく部屋を出た。コンビニでオレンジジュースとバナナを買った。帰り道、家の玄関先で大事そうにタバコを吸う初老の男がいた。彼は目を細めながら、タバコを指で叩き灰を落とした。その灰はチラチラと舞い、彼の家の誰かが育てている植木鉢に落ちた。それを育てているのはおそらく彼だったが、慣れているようだった。

近ごろの週末は教科書に出してもいいくらい立派に晴れた。アナウンサーや天気予報士も、これだけ気持ちいい天気が続けば、それを表現するための言葉も弾切れになってしまうのではないか。晴れが続くというのも彼らにとってなかなか気の毒である。

 

コンビニから戻りすぐ走れる格好になり、また部屋を出た。明大前の線路下をくぐって甲州街道へ出て、井の頭公園につながる神田川を目指した。途中、ジャパン・トライアスロン・なんとか・クラブと書かれたTシャツの集団に遭遇し彼らは中野方面へ走って行った。目当ての川沿いには、過程は違えどおおむね私と同じような考えのジョガーで溢れていた。溢れていた、と言っても身体の向きを変えながら「スミマセンスミマセン」と言って歩かなければならないほどの人がいたというわけではなく、すれ違う、あるいは少し並走するタイミングが多かったという具合だ。余談だがあの「スミマセンスミマセン」という譲り方はどうやら海外から来られた方にとってはおもしろいらしい。

高井戸駅三鷹台駅だけは、どうしても川沿いを走れないコースになっていたが、それ以外は文句のつけようもないくらい気持ちいいコースだった。川のせせらぎがちょろちょろと聞こえてくるのもなんとなく良かった。イヤホンは持って来ず、ショルダーに入れたスマートフォンからラジオを流した。ここまで気持ちがいいと周囲にラジオの音が漏れることなんて大して恥ずかしいことではなかった。

 

DJは「先週に引き続きプリンスの特集だ~」と言った。私はプリンスをよく知らなかった。以前もランニング中にその番組を聞いていた時にはホイットニー・ヒューストンが流れてきた。ラジオでたまたま聞けるホイットニーの「アイ・ワナ・ダンス・ウィズ・サムバディ」ほど素晴らしいものはない、と思った。その次の選曲が「ソー・エモーショナル」で、それさえ聞き終われば僕はもうここで命を落としても構わない、と思った。

僕はホイットニーの全てを知らないが、これだけプリティにかつ一生懸命に踊り、しっかりと歌う歌手を他に知らない。いるっちゃいるけれども、彼女は彼女で言葉にし難いオンリーワンの素晴らしさがあると思うのですがいかがでしょう?

さてホイットニーの話はそれくらいにして、それくらい初夏の親水公園を走るこというのは解放感がある。波音の立つビーチほどうるさすぎず、山奥で流れる沢ほど静かすぎない、こんな小川が家の近くにあるいい。

このコースでは何一つ不自由せず、これ以上求めるものなんて何もないように思えたけど、僕は走りながら「喉が乾く」でもなく「お腹が空いた」でもない欲求を感じとった。それがその時にはなんだったのかわからなかった。時折苦しくなったけどペースを抑えれば済む話だった。そもそも今日は「ゆっくりと走ろう」という絶対目標があったから「ペースが上がる」ことはそれ自体が悪である。必要悪であるが排除しなければならないことだった。

 

井の頭公園では店を出したり、男の子が女の子の手をしっかりと握ったり、あるいは子どもが親を探していた。「ママどこ?」というのに対し、片手にビールを飲みながら歩く男女のグループが「ママいないの? 大丈夫?」と声をかけた。その問いかけに子供は答えず、直後には振り向いて「パパ、ママはどこ?」と聞いた。グループのメンバーは安心した。それをみていた僕も正直安心した。

公園の時計が17時を指した。まだ明るくてあたたかくて、そこにいる誰もが「お開きにしようか」だなんてまだ考えない風だった。そのような平和な風景を目の当たりにし、僕は僕のやるべきことを思い出してUターンした。

引き返すと、きたさっきまでの道がまったく違うもののように見えた。方向は違えどそれはもちろん同じ道である。風景の向きが変わるだけで、あるいは身体を押す風の向きが違うだけで、こんなにも景色が変わってみえるのである。途中どうしてもお腹が空き、コンビニへ立ち寄った。氷菓を買いそれを食べながらきた道を戻った。

だいたい1キロ5分40秒くらいで往復で20キロ。これだけゆっくりしたペースで20キロ走るのは初めてだったが、いいトレーニングになった。家が近づいた。自販機の前に立ち、何を飲もうか考えていたのだが、飲みたい類を見つけられなかった時に僕は、自分が「ビールを飲みたい」と思っていることに気がついた。

 

これまで沢山ビールを飲んできたけれど、このようなタイミングで飲みたいと思ったことはなかった。世の中年の方々には申し訳ないと思うけれど(また弊誌「ランナーズ」上あまり良くないことだけれど)「ランニング後のビールが最高」(ビールのためのランニング-Running for Beer)というのがいまいちわからなかった。

自分で言うのも恥ずかしいけれど競技的スポーツの場でちょっと長い時間を過ごしてきたのでトレーニング後は何よりもまず疲労回復である。水分とアミノ酸を摂る。このトレーニング効果が失われるくらいならビールを飲みたいという欲求を我慢することはそれほど難しいことではない、と思っていた。確かにそれ通りでない非合理的なお酒もないではないが、そういった原則はほとんどといっていいほどきちんと従ってきた。その方が負い目も感じなくて済むしね

だけどこれだけ晴れた日に、僕なりに一定のペースをきちんと守り、緑とツツジに囲まれながら、1人で自由に20キロも走れば自然とビールが飲みたくなる気持ちもわかる気がしないでもない。

というわけで僕は、水分補給を兼ねてプロテインを飲み、アミノ酸とビタミンをとり、キンキンに冷えたサッポロビールの缶のプルタブを引いている。お疲れ様でした。