スーツ

あれだけ嫌がっていたスーツに対して心許せるようになったのは、それはすこしでも余裕を持てるようになったからかもしれない。以前まではピシッと決まったスーツを見ただけでも、いやらしくどぎまぎした。冷や汗が出たりした。息が上がって、話したいことを思うように話せなかった。でもこの頃は違って、スーツを目の前にしても息を整えて話したいことを多少は話せるようになった。純粋に、スーツがかっこいいと感じるようになったのだ。通勤時やプライベートでスーツ姿を目にすると、あれはいいものなんだろうな、とか反対に、あれは着こなしが良くないな、残念だなとか思ったりする。人格までどうこういうつもりはさらさらないのだが、やはり、きれいに清潔に着ている人は、見知らぬ相手にまでいい印象を植え付けるみたいだ。そんなこんなが前置きとしてあって、最近は買い物に出かけると、否応なしに紳士服売り場のスーツ周辺に足が伸びてしまう。これは、ティーシャツ一枚買うのとは違って、簡単にポンポンお金を出せる訳ではない。じゃあどうするか。まず自分が現在着ているものを少なくとも良い状態で着れるように心がけようと思った。割にキチンとしたハンガーにかけたり、場合によっては角度や場所を選んだりして、シワが定着しないようにしてみた。今の時期はまだワイシャツで居られるから、シャツの状態をよく保てるように出来ないか、と電車に揺られながら考えていた。春先家族がやって着た時、母が私の部屋に寝泊まりした。そこでアイロンのかけ方を教わった。ほとんど忘れてしまったけれど、キチンと台をだし、アイロンを温め、霧吹きを準備した。あらためて、だらんと横たわった白いワイシャツの前に構えてみると、どこから手をつけてよいかわからなくなった。しかし焦ることなかれ。ネットで調べ順序よく圧をかけていく。まず生地をしっかりと濡らすこと。そして熱を押さえつける。方向は直線のみ。何度も往復したりしない。次第にワイシャツの幅が広がっていくような感覚を覚えながら、全体を通してやってみると白いワイシャツは、元あったシワだらけのそれよりも1.5倍ほど大きくなったように見える。心なしか、それまでよりも「白さ」が際立っている。確かに僕はポップな柄物は好きだけど、スーツに合わせるワイシャツは何よりも「白い」ものがいい。

 

以前、いいスーツを着ている人のジャケットに隠れるそれの「白さ」にはなんだかヒエラルキーがあるように思ったことがあったのだ。白は白でもモノによってずいぶんと異なるらしい。