「僕」と「私」と「わたし」の記録

87パーセントはフィクションです

「信号ってあんまり臭くないんですね」

 

文字で表現するのが難しい。「朝の1分」が惜しい。それでも表現することが何か意味があるものだと思って、とりあえず書き残しておこうと思った。(その理由を説明しようとしたら朝の時間だけでは事足りないのです。)・・・私はプールの出入り口狭いところに寝ていて、起きるとやってくる客の靴整理をしていた。誰に頼まれたわけでもない。自発的にやろうとしたわけでもない。気づいたらそこにいた。・・・狭いところに長くいたみたいで身体の節々が痛んだ。それでも私はやってきた人から靴を受け取り、時々自分がどけて背中のところに靴を押し込めていたりした。あくせく靴の整理をしていた。・・・やってくる人たちは私が幼稚園から高校、大学にかけて様々なシャカイに属していた時の知人だった。親友と呼べそうなものから、なんでお前が?というものもいる。先輩はいたが後輩はいなかった。・・・ある長髪の男は背が高かった。彼はアイプチとカラーコンタクトを毎日しているような女と付き合っていて、高3に上がる時に彼から別れを告げ、それから女は鬱になって自殺未遂になった。しかしその場面では彼らは仲よくプールにやって来た。1つ上の幼なじみは「また就職活動を東京でするから泊めてほしい」と言った。現実にはいるはずがない姉の話をした。姉はキンツキチョウにいる、と説明した。「どこそれ?」と聞くと「キンシチョウ」の聞き間違いだった。「錦糸町に住む女はどうかしてる」と思った。どうしてそれを夜明けのプールサイドで、口頭で伝えなければならなかったのかわからなかったが、私は快諾した。先輩の女は「そこに置きたいんやけど」と言って私をどかした。私は「おはようございます!すみません!」と元気よく言ってその赤いランニングシューズを受け取った。先客の青いスニーカーはプールに投げてやった。とても気持ちがよかった。先輩は今芸能事務所で働いている。・・・そういえば、朝日がとても眩しかった。それで目覚めたのかもしれない。私は、自分がどこから来て、いかなる理由でそのプールの狭い入り口で寝ていたのか、あるいはそこからどこへ行くつもりだったのか知らない。誰も知らない。・・・(まさかそのプールから出勤するわけでもないよな。)・・・場面が切り替わって、私はゴミ処理場を想起させるほど臭いが立ち込むところにいた。と言ってもゴミ処理場は普段そんなににおいがしないかもしれない。島の周りを濁った水が「激流」という勢いで流れていた。私たちは島に取り残されていた。流れていた、というのは何かしらの動力で自動的にうごき、それはある程度網状になっていて水を押しやっていたのだ。・・・「あそこに信号が入ってんよ。」その声の主は、この間新宿で飲んだ女だった。女はタバコをポケットから出し、丁寧に火をつけた。風がよく吹いていた。女の手で私の口にも咥えさせられ、不器用にそれを吸った。「うち嬢やってんねん」と言った。どこから持って来たのかわからない300mlのビール瓶が地面に置かれていて、それを二人で飲んだ。私も女も美味しそうに飲んだ。私たちはなぜここにいるのか、どこから来たのか、そしてこれからどこへ行くのかわからなかった。まったく見当もつかなかった。・・・僕の頭の中ではずっと「信号ってあんまり臭くないんですね」というフレーズがこだましている。狭い四角い箱の中で不自然な力を得たピンポン球が半永久的に、四方八方ぶつかり跳ねているような感じだ。そんなセリフは僕が口にしたのだろうか。きっとしたのだろう。・・・なぜか書き残さずにはいられなかった。「朝の1分」を無駄にしようとも。僕はずっと黙っていた。