「僕」と「私」と「わたし」の記録

87パーセントはフィクションです

「こんなことあったなあ」という話です

 

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天井に、古びた電燈がいくつかぶら下がっていてそのうちの一つだけ、灯りがついていない。なぜだろう。あれは電燈の形をしたただの飾りなのか、ただ壊れていて電気が通っていないのか、とても気になったが理由はわからなかった。店の奥には、ふたつ向き合ったひとり用のソファがふたつ連なっている。4人で来れば4人が収まることができるが、テーブルが別箇で設置されているのを考えると、ペアが二組座れることを想定しているようである。初めに男女ペアが向き合って座り、後に来たカップルもその向きにならって腰かけた。ペアの異なる男女が隣同士になるのを意図的に避けるように見えた。いいや、そんなことはどうだってよかった。斜め前に座る女性のペアは「こないだ痴漢されて」という旨の話に盛り上がっており、後ろに座るおじさんのペアは「新人が遅刻はいかん」という話で、盛り上がっている。ことばを聞いてみると、どうやら西の人らしい。なぜ、500キロ以上離れたと思しきここに「西の人」がいるのか、その時は考えなかった。少しすると、この場にいない知人に「この間子供ができて、そいつがかわいくてたまらない」という話に移っている。私が目を閉じたうちに。店員は客の頼みを受け、間違うことなく酒を注いでいた。矢継ぎ早に。ガラスの間から漏れる、タバコやら焼き料理の混じった煙にむせることなく、正確に注いだ。私は帰ろうと思って立ち上がり、椅子に掛けていた上着を羽織ろうとした。すると、ファスナーの重みに遠心力がはたらいて、背後に座っているおじさんの顔を直撃した。ああ、まずい。怒られると思った。私は即座に頭を下げ、謝罪した。すると「ええねんええねん。近かったしな。気にせんでよろしい」とおじさんは答えた。命拾いをした。おじさんは驚くほどやさしくて、私は「すみません、ありがとうございます」といってバックを背負いその場を去った。狭くて狭くて、酸素が足りなくなるような店だった。妄想なのか創作なのか実際過去にあったのか、書いている自分でも判別できません。「こんなことあったなあ」という話です。