何を書くか、何を書かないか。

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東京駅地下街

バスに乗って東京に出た。父に会うためだった。しかしわたしはひとりじゃなかった。となりには相方がぐっすり眠っていて後にわたしもそれを追いかけた。つくばエクスプレス(通称TX)を使うと、つくば秋葉原間を一般的に1180円で移動できる。これを高いととるか安いととるか人それぞれだが、わたし的にはそれが限界なんだろうと素直に感心したい気持ちが強い。何が限界かっていうと「距離に対しての速度」の値段がどこかでは規定されているらしい。快速で飛ばせば45分で着く。茨城南部から千葉、埼玉をすっとばして45分で着くというのは喜ばしいことなんじゃないか。といいつつも、就職活動のときも時間とお金が死活問題だったので、嫌々つくばと東京を行ったり来たりしていた。それにも今ではすこしだけ飽きた。飽きたといっても、帰り道のバスで「東京に勤めて住んだとしたらこの風景も見なくなるのかね」と切なくなった。ところでバスを使うと、小さいバス停にいくつか停車しても1時間30分前後で移動できる。そのうえ謎のシステムによって、現金で1180円かかるところをICカードを使用した時のみ950円で可能になる。230円も差し引いてしまっていいのかと思ってしまう。最終面接の前日わたしはこれを利用した。それを相方にも紹介したらいっしょに使いたいと言うので今日がちょうどいいなと思った。けさ女の子の事情とわたしの気遣いのなさで相方は機嫌を損ねていたがバスに乗るとすこしは緩やかになった。わたしは『ノルウェイの森 上』を読み切りたかったのであまり構わず酔わないように必死に読み進めていた。向こうに着くと少しぶらぶらした。がっちりマンデーで東京駅の地下街が話題になっていたのでぶらりしたい気分だった。当初はふたりで永田町の国立国会図書館に行きたかったのだがプラン通りに進まないのが予定だなとおもい陳謝した。それでも喜んでぶらりに付き合ってくれた。相方はわたしの父に会うことに緊張していた。「手汗が」というので「手は見ないだろ」といって握ろうとしたら撥ね退けられた。わたしもわたしの父に会うというのにいつになく緊張した。汗かきな父は急ぎ足でこちらに向かってきて「新幹線の切符買ってくると」言ってまたわたしたちを10分ほど待たせた。地下にもぐると父は足早に先を行った。とても慣れているようだった。「エビスバー」につき3名を告げると「いまからですと4時30分までのご案内になります」というので引き上げて沖縄料理のうまいところにお邪魔した。夕方からオリオンビールで乾杯し、手土産に茨城の地ビールを瓶と缶で一本ずつ渡した。冷えたビールはやはりうまかった。「この世にはビールしかなくてよい」と本気で思っている。去年の暮れの祖父母の家でも1ダースの8割ほどを一人で飲み切った。相方の手土産に父はよく喜んでいるようだった。相方は酒は飲めないクチではなく気分と時間さえ合えば飲みたいねと言っていた。ほとんど一緒に過ごしているのも同然なので外では飲まない。高いし。実はきょうが初めて外で乾杯した日でもあった。酒も入ると父も饒舌になるのを知っていたのでわたしは次々と杯を乾かした。というよりもわたしのグラスは底にたまっていても父がせかすので次の一杯を頼まざるをえないのだった。しかしそれが不思議と気分の悪いものではないのでわたしも酒好きの血をひいてしまっているんだなと残念なような残念でないような複雑な心持ちにさせられた。自己紹介をすませ、生い立ちや家族構成、どんな仕事に就くのか、どんな風に生きていきたいのか父は相方に対してやさしく面談しているようだった。そのあとは本の話題で持ちきりになった。無類の本好きである父と本の好みが合う相方と、本の話題で持ちきりにならないわけがなかった。母親を半ばだまして会っていた父はすこしだけわたしたちにアリバイを教授した。すると母から電話があって、事の断片的な一部分を話すと「(お父さん)ずるい」といった。母も相方に会いたがっているようだった。