何を書くか、何を書かないか。

70パーセントはフィクションだと思ってください。

制限時間はいつまで

 

 乳液を顔一面にくまなく伸ばしている。そのまーるい横顔を見ているとやんわりとする。僕も真似をしようと白いのろっとした液体を分けてもらう。

 おなじくして顔に塗りたくる。また横を見れば、同じ部屋に居ると不思議な気分だね、と笑う。そう、よく笑う。

 

 ひとといっしょにいると美意識に対し敏感になるらしい。部屋も、からだも、こころもいろんな意味で気を遣う。ひとを意識するとよい具合にじぶんを規制するようになる。

 ふたりでいる間は、とにかくずっと『Phoenix』の「Speak Low」を掛けつづけた。相反して、ただよう悲壮感が好き。Miles Davisも少し聴いた。妙に色っぽく感じられる。

 

 鏡に映ったキッチンに立つあの子のうしろ姿を写真に収めてみると、そこに見えたのはちょっと先にあってほしいような未来だった。

 うどんをすするとむせた。楽しくてついむせた。よるとあさのこと、キッチンと部屋の両方に流れる時間はゆったりとしているよう。けれど、なんだかはやい。お互いの制限時間が別々に存在しているからこそ、共有できる時間は貴重で、愛おしくて、最終的にはなんだか切ない位のものに感じられる。とりとめもなくこぼれていくなぁって、思ったの。それだけね。

  

 

 


Nina Hoss Speak low Phoenix