何を書くか、何を書かないか。

70パーセントはフィクションだと思ってください。

 

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 小さいころから、よく歯医者さんに通っていた。虫歯ができると母はとても心配をして、すぐそこへ連れていった。キィーンという音、ツンと鼻につく匂い、やさしい綺麗な顔をしたナースさん、ありきたりにずっと流し続けられるアニメのビデオ、どれもこれもそこに発生しうる「嫌な思い出」をかき消すよう、中和させるため設置させられている数々の物体。不思議と、嫌いではなかった。好きでもなかったがなんとなくあの雰囲気と、匂いと、やさしさの雑じり具合が感情を穏やかにした。

 

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 以前から前歯が大きかった。それがコンプレックスだった時期もあった。特に自分から気にする訳ではなくて、友達に馬鹿にされたことがあったからだ。そのことをバイト先にいる親と同じくらいの年代の女性社員さんに話をすると「いやいや、それは出っ歯じゃないよ。あんたより、もっとひどいのが世の中にはたくさん居るのよ。」と言った。人のコンプレックスを物言い、タブーで不謹慎なその一言に笑ってしまった。また同時に、自分の中で何かが動いた気がした。少し、安心した感じだった。僕自身、この21年間生きてきて、少なからず気にしなかったことはない、この口の中に数十本生えている白い物体は、既に自明のものとみなしており、「無い」ということを不自然に感じたことはなかった。

 

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 この一連の出来事はきのうのこと。前歯の片割れが半分に折れた。ちゃんと言うと、自転車で転び、重力に逆らえず、顔から飛び出して、歯を折った。誰かに折られたというわけではなく、間違いなくこの体躯で折った。これは夢だ、と思い込みたかったので、家に着くやいなやすぐに寝た。目が覚めると、目の上と頬の傷から流れて出た血で、枕もとは真っ赤に染まっていた。鏡に映った顔を見ると、大きな前歯の片割れは歪み、また一方が半分に折れていた。うーんと唸り、これもまた夢かと思い詰めたけど、すぐに悟った。きっとこれは夢ではない、と。

 

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 強く反省をした。まず母に謝らなければならない。さて、周りにはなんて言おう。どうしたらいいか分からず、ただただ時間だけが過ぎた。病院に電話で予約を入れようと思っても、なかなか手がそちらへ進まない。やっとのことで電話を掛けたが、出ない。結局、予約を入れられなかった。そして、何を思ったか、録画していたTHE MANZAIを観だした。最高峰の笑いにやられ、次第に笑いが込みげてきた。彼らはタブーなことをネタにし、笑いをかっさらう。今の私自身がまさにその状況で、何が何だかわからない程に面白くなってしまった。鏡に映る自分の顔を見て、1人大笑いする。乾燥した部屋に涙交じりの濡れた笑いが響いた。しかし、それも束の間で、すぐに虚無感と苦痛が襲い掛かってきた。