何を書くか、何を書かないか。

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福居良という男がいた

秋といえばジャズ、秋といえば雨。つまりジャズとは雨の日に聴くものです。なので僕としては難しくてもジャズについて書いてみます。ジャズは聴いていること自体あまり公言できるものではなくて(当たり前だけど相手が反応に困るであろうからです)、もし仮に同じ空間にいてその時に僕が選曲したら「ああ好きなんだ」と悟ってもらえればいいな程度の気持ちです。とはいえそんなシチュエーションは少ないです。父親に影響を受けていて、やはりしっかりと受け継いでいます。ボイスがある方は母親で、インストゥルメンタルは父親です。どちらも楽器は全くできない一般人であるけれど。

 

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福居良というジャズピアニストがいた。「いた」というのだから今はこの世にいない。2016年3月15日、68歳で死去した。その事実を僕は今日初めてインターネットで調べて知った(生きているとばかり思っていて、もしかすると見かけることができるかもしれないと期待したので衝撃的だったし少なからぬショックを僕に与えた)。この奏者を僕はどんな経緯で知ったのか、今となってははっきりとは思い出せない。恐らくはビル・エヴァンスの「オータム・リーブス(枯葉)」を動画サイトで聴き、その関連でリンクしたのだと推測する。そして「気に入った」。

ジャズの源流が黒人(アフリカン・アメリカン)にあることは言うまでもないけれど、それ以降本当に広い世界でジャズは形を変え、時には音自体を変えて発展してきた。ロシアにはロシアのジャズがあり、イタリアにはイタリアのジャズがある。同じように日本には日本のジャズがある。ジャンルとして語られないだけできちんと存在している。

僕が山形に行った時に大体は訪れる喫茶店「オクテット」(その店については右のリンクに記載してあります いい店に出合うこと )のマスターは「ジャズはいろんなプレイヤー(奏者)が自分の演(や)り方で演るから、一つひとつにオリジナルな魂が宿っています。タイトルはあってもどれも一緒じゃない」

と言ったけど、中学生から聴き始めておよそ10年近く経ち、言葉の意味をカケラだけでもわかり始めたような気がする。

この奏者の音楽を聴いた時にまず初めに思ったのは、日本人である私に馴染みやすい音で、同時に、この奏者は日本人であろうということだった。それこそ大西順子山下洋輔山中千尋上原ひろみと色んな日本人ジャズミュージシャンはいるけれど、やっぱりどれにおいても当てはまった。日本人である彼らが聴き、心が震えるものがあり、真似たり、アレンジし自分の曲に染めていくのだから「日本人に馴染みやすくなる」のは当然といえば当然のことだけど、よく考えてみると不思議なことである。何故かはわかっていない。

楽器演奏の類としては、クラシック音楽ではそのような感興を得ないのに対して、ジャズに関しては僕は敏感に「これは日本人奏者の演奏するものだ」と感じることができ、同時に全身で吸収できる。そして僕は彼らが感銘を受け、愛し、真似ようとし、必死に自分のものにしようとしたであろう旧いジャズを、同じように愛することができる。

 

福居良は22歳で初めて鍵盤を触り、23歳でジャズピアノに取り組んだ。北海道出身で20歳過ぎて上京し、松本英彦に出会う。優れた奏者に出会うという貴重な体験は同時に「挫折」へと意味を変え、彼は自室に引きこもるようになった。その時、ラジオから訥々と流れてきたエラ・フィッツジェラルドの「Cジャムブルース」に感涙し、福居は再起を誓った。晩年は「気がついたら40年が過ぎていた」と口にしており、68歳で死去した。

22歳からのスタートがこのように遠い人間の心を揺らがせるようになる、ということと、この紛れもない「スロースタートさ」に僕は驚かざる得ない(ひょっとすると早いも遅いもないかもしれないが、一定水準の技術、スキル、芸術的感性を要する「ピアノ」という領域ではきっと意味をなすだろう)。

現在では彼の音楽を、もちろんインターネットかレコード、CDでしか聴けないが、僕は満足してしまう。特に気に入っている「シーナリィ」では一音一音を力強く弾く。これをまさしく「鍵盤を叩く」 という表現する以外にどう言えようか。動画サイトなどで聴けるモダーンで、とりわけ作業用としてしか役に立たないであろうカフェ・ミュージックとの決定的な違いはこれだと思っている。

僕はこの人の音楽をどうしても生演奏で聴きたい!  と心から思った。もちろんもう聴けないのだけど、だからこそ心にズシンとくるこの曲は「僕にとって価値がある」と思っている。

よかったら聴いてみてください。

 


Ryo Fukui - Scenery 1976 (FULL ALBUM)